【開催報告】SDGsカフェ4「誰もが生き生きと暮らせる地域を創る」~ユニバーサルデザインの考え方と実践から~

日 時:2022年9月10日(土) 14:00~17:00

会 場:ちがさき市民活動サポートセンター フリースペース大

ゲストスピーカー:
関根 千佳さん((株)ユーディット会長兼シニアフェロー、同志社大学客員教授)
荒井 佑介さん(NPO法人サンカクシャ代表理事)

<プログラム>
最初は、関根さんの講演と質疑応答。その後のグループワークでは、自己紹介と講演の感想を共有しました。続いて、荒井さんの講演の後、関根さん・荒井さんによるパネルトークを行いました。2回目のグループワークでは、1日のプログラムを振り返り、グループ内で感想を共有しました。最後の全体会では、フロアーの参加者と登壇者で質疑応答を行い、定時に閉会となりました。


【関根さん 講演概要】

・冒頭、「もし明日、事故や病気で障害を持ったら、あなたはどうやって仕事を続けますか?」という「問い」かけがあり、グループ内で話し合った。

・障害(Disability)とは、能力がないのではなく、能力の発揮を阻害されている状態である。この状態を変えていくことが求められている。

・世の中には使いにくいものがたくさんある。それってUDなのか?と考える癖をつけてほしい。

・ユニバーサルデザイン(UD)とは、「年令、性別、能力、体格などにかかわらず、より多くの人ができるだけ使えるよう、最初から考慮して、まち、もの、情報、サービスなどを多様な市民と共に作るという考え方と、それを作り出すプロセス」である。

・UDには、アクセシビリティ(使えるのか)とユーザビリティ(使いやすいのか)の二大要素がある。

・なぜ日本でUDが必要か? その理由は、1,日本が世界最高齢国家だから(膨大な量の消費者が満足できる製品がない)、2,子育てしやすい街が選ばれるから(女性、イクメン、シニアがベビーカーを押せる街)、3、障害者差別解消法が施行されたから(世界の法制度から見ると30年ほど遅れ)、4、外国人やLGBTQへの対応が必要だから(ハラルや多言語対応など多様性への理解必須)

・ダイバーシティ&インクルージョンという言葉も覚えてほしい。日本では、ダイバーシティというと、女性活躍のことを指す企業が多い。しかし、国際的には、性別、年齢、障害、国籍、宗教、LGBTQなど幅広い人々を指す。インクルージョンとは、分けない社会ということ。教育も就労も、できるだけ同じ場所で、それぞれが能力を発揮できるよう配慮する。欧米では特別支援教育も特例子会社も廃止の方向である。

・障害者のソーシャルインクルージョンについて、まずは障害者が普通に教育を受け、就労し、自分の人生を選んでいける社会にしたい。我々はいつ障害を持つか分からないし、高齢で死ぬ前の10年間は何らかの障害を持つ確率が100パーセントになる。なのに、どうしてその障害に備えようとしないのか。欧米は健常者と障害者を分けない社会が進んでおり、特別支援教育も特例子会社も廃止されつつある。教育と技術が人を支えていくという意識が高い。

・情報保障とは、「それぞれの人が、自分のわかりやすい手段で、情報にアクセスできること」。

聴覚障害者なら手話や文字情報で、視覚障害者なら音声や点字で、日本語を母国語としない人や知的障害者には「やさしい日本語」や、言語通訳、多言語表記、ピクトグラム(絵文字)を利用すること。カラーUDでは、例えば板書の色に配慮が必要となる。

・ドコモらくらくホンやセブン銀行のATMのUDも、私が視覚障害のデザイナーと一緒に手掛けた。もっと身近なものでは、切り餅のパッケージを開け易くしたり、ローソンの食品のパッケージの表示を分かりやすくした。

・行政サービスでは、特に家族が亡くなったときの手続き書類が多い。現在、氏名等を一回入力するだけでいいというワンストップサービスの導入が自治体で進められており、これがUDの理想例ともいえる。

・私の著書「UDのちから」では、海外の状況も多数盛り込んでいる。本の表紙は、障害を持つ社員がCGで作成した。

・毎年ロサンゼルスで開催されている障害者とテクノロジー会議(CSUN)に参加しているが、4千人もの参加者の半数以上は電動車いすや盲導犬を伴って社会の第一線で活躍する方々であることに驚かされる。最近ではデジタル・アクセシビリティという概念が話題となっている。

・米国では、障害者が使いづらい情報の提供は、ADA(障害を持つアメリカ人法)やSDGs違反となる。

・社会を変える魔法の3点セットがある。1つ目は、課題の指摘 (うちの子だったら、うちのおじいちゃんだったらと考える癖をつける)、2つ目は、改善案の提示(できるだけ実現可能な方法で。法律や技術に関する知識も必要)、3つ目は、ここは素晴らしい!とほめること(努力を認めることは次につながる。特に行政・自治体職員に対して有効。)

・多様な市民の声は社会を動かす、という事例を紹介したい。全米のTV番組やCMに字幕がついた理由は、「北風より太陽」で社会を動かしたのである。テレビの視聴者が、「字幕付けてくれてありがとう」というサンクス・レターを大量にテレビ局に届けたことで、消費者に感謝されると止められなくなった。結果として、「良識ある企業としてUDは当然」という意識に、会社や社会全体が変化していくのである。皆さんの声で社会を明るい方向へ導いてほしい。


【荒井さん 講演概要】

・サンカクシャの活動について話をしたい。今、200人の若者に伴走支援をしている。サンカクシャのサポーターは約100人で、スタッフは20名くらいいる。サンカクシャの活動の柱は、若者が社会で生き抜いていくために欠かせない、居場所づくり、仕事のサポート、住まいのサポートの3つ。最近は、20社くらいの企業が、仕事を提供してくれたり、若者を雇用してくれたりしている。

・コロナ禍の前は、学校に居場所のない若者がサンカクシャに流れてくる傾向があったが、コロナ禍以降は、家庭に居場所のない若者の利用が増えている。親から暴力を受けたり、親からネグレクトされた若者は親を頼れず、かといって一人では生きていけない。そうした若者がサンカクシャに来るようになっている。

・親から虐待やネグレクトを受けている子どもたちは、人と関わることが怖くなり、「警戒モード」で生きているので、初対面の相手にはなかなか心を開いてくれない。また、自己肯定感が低いので、色々な提案をしてもなかなか受けれてくれない。その結果、何かに取り組む意欲、生きる意欲がなくなっていく。

・そうした子どもたちに向けて、こんな支援があると行政が発信しても、その情報は子どもたちの心に響きにくい。こうした子どもたちは孤立しやすいので、こちら(サンカクシャ)から出ていくアウトリーチが必要になる。

・子どもの貧困という言葉が社会に広まるにつれ、子ども食堂や学習支援など、15歳までの子どもへの支援は整いつつある。一方、30代への就労支援の体制はそれなりにあるので、サンカクシャでは、主に15歳から25歳までの若者たちへのサポートを行っている。

・最近は、若者の居場所として利用している拠点の中で、仕事が受けられるようにしている。例えば、DMの封入とか、動画編集などの仕事を請け負っている。最近では、近隣の飲食店も就労場所の提供に協力してくれるようになり、仕事に自信をもてない若者を地域ぐるみでサポートする体制ができつつある。

・アップル社との事業連携も始まっている。サンカクシャを利用する若者が、プロの技術者から動画編集やカメラ撮影の技術を学ぶ機会を提供してもらっている。クリエイティブなことに興味のない若者たちが参加したのだが、参加者の作品発表は素晴らしく、スタッフの一人が感動の涙を流す場面もあった。自信ってこうやって生まれるんだなあと感じた。私は、参加した若者が激変する姿をみて、従来の就労支援ではなく、アートのような非日常の機会を提供することがより有効ではないか、実はこうした若者たちはクリエイティブと相性がいいのでは、と思い始めている。

・シェアハウスに住む若者は、全員ゲームをやっている。オンラインゲームにはボイス・チャット機能があるので、自宅にひきこもっている子ども・若者もオンラインゲームに参加することができ、一カ所に集まらなくても、ゲームの仮想空間が居場所になっていることがわかってきた。

・Twitterでシェアハウスの情報を発信したら、問合せが多数来るようになった。Twitterで相談者とやり取りしていると、貧困ビジネスにはまりかけている若者がいることが見えてきた。こうした状況に陥っている若者をもっとサポートしていく必要性を感じている。こうした若者は、行政の相談窓口にはなじめないことが多い。ゲームという共通の関心事があるので、困難を抱えた若者ともつながりやすい。

・今後は、炊き出しではなく、〇〇フェスのような、若者に魅力的なイベントに挑戦してみたいと思っている。こちらから歩み寄っていかないとつながれない若者が沢山いると感じている。「誰も取り残さない」ということを考えた時、待っているだけでは駄目だと思う。

・サンカクシャの取り組みをまとめると、まずは、孤立している若者にアウトリーチする。次に、仲良くなって、安心できる居場所やシェアハウスを提供し、若者と信頼関係を築く。次に、自立に向けて就労につなげる。就労につなげるためには、「知らない人と話す。知らない場に慣れる。」という体験の場を提供することが必要で、最終的には「ひとり暮らしができる」ことを目指している。

・最近、サンカクシャを卒業して一人暮らしを始めた若者が「寂しい」と言ってきた。サンカクシャは、いつでも帰ってこられる「実家」みたいな場所になれるとよいと思う。

・今は、まず、学校、家庭、会社から取りこぼされた子どもたちを公的支援で支える。そこからこぼれる子どもたちを民間が支える、という構図になっていると思う。サンカクシャの活動は、支援団体ではなく、家族の代わりのような存在であり、また、部分的には会社のような存在でもあると思っている。人が生きていく基盤を地域全体で支えるコミュニティをつくる活動が必要ではないか。それが新たなセーフティーネットとなっていくのでは。

・都市は若者をキャッチし易いので、今後は、地方拠点づくりをしたい。都市でつながった子どもたちが地方で生きていく道を模索したい。サンカクシャでは、今旅行部という組織をつくって、地方拠点の開拓をみんなでやっている。東京の生活リズムに合わない若者が、地方で暮らせるようにしていきたい。


【参加者 感想】

〇関根さんの講演
・再度関根さんの講演を伺いたい。直接お話をしたかった。
・3つの魔法を守って、行政とはおつき合いします。久しぶりに関根さんらしいお話を聞いて、楽しかったです。ありがとうございます。
・3つの魔法を受け取ったので、これを存分に活用します。
・障がいとは、能力がないのではなく、能力の発揮を阻害されている状態は、目からウロコ。
・海外との違いと当事者がUDを作っていく仕組みが聞けたことが良かった。
・聞いてみたいことが、結論として内容にあり、とても参考になりました。
・SDGsの認識が私の思いとちがって話を身近に感じられなかった。

〇荒井さんの講演
・とても刺激を受けました。社会のさまざまな人が「サンカク」する新しい社会のエコシステムをつくられていると思いました。
・若者支援のリアルが見られて、とてもよかったです。
・情熱と行動力に感服しました。動けばお金はあとからついてくる。
・若者の支援について詳しく聞けた。
・すごく若い力で若者をささえるその実態を見せてもらってよかった。これがまさしくSDGsではないか。
・是非、熊本県植木町平島温泉のような地方にサンカクシャの支店を作ってください。私が、地域アドバイスいたします。地域再生お願いします。

〇グループワーク

・様々な方面から意見が頂けてよかったです。
・今日は参加者との交流がほとんどなかったのは残念。交流メインの会も欲しい。
・2人の講演で共通している結果を導いてくれてよかった。共通の目標がでてきた。

次回のSDGsカフェ5は、12月3日(土)に「障がいのある人と おしゃべりしませんか— 津久井やまゆり園事件から6年、障がい者は今 —」というテーマで開催します。詳しくは、こちらのページ をご覧ください。