【開催報告】2/26(土) 地域の居場所づくり交流会Ⅵ@茅ヶ崎~オンライン開催

「地域の居場所づくり交流会Ⅵ」では
『つながり創出』の視点から居場所の意義を再考

開催日時:2022年2月26日(土) 14:00 ~ 17:00
開催方法:オンライン開催(ZOOM)

コロナ禍の中、昨年に続き、今年度もオンラインでの交流会となりました。今回は、申込締切日前に定員を超える盛況で、30人を超えるメンバーで熱心に意見交換をしました。会の終了後も複数の方からお問い合わせをいただき、参加者同士をつなげるコーディネートの機会もありました。


講 演「居場所を再考する ~つながり創出の視点から~」

守本陽一さんの写真

守本陽一さん: (一社)ケアと暮らしの編集社 代表理事

近年、高齢化が進み慢性期疾患が増える中で、地域包括ケアシステムが構築されてきた。病院は患者と入退院の間等でしか関われず、もっと日常に近いところで医療が関われないかということが懸案だった。そこで注目したのが、患者さんに地域のつながりを処方する「社会的処方」という考え方である。

まちづくりの観点では空き家の増加などにより、理想的なコンパクトシティではなく、都市部のスポンジ化が進行している。こうした空き家や空き店舗に小規模多機能な場をつくっていくことで、人と人のつながりを取り戻し、現実的な都市の再生をめざしていきたい。

私の今の拠点は、兵庫県北部、但馬地域の中心都市・豊岡市で、雪深く、城崎温泉、コウノトリが有名で、最近はアートの街ともいわれる。一方で、高齢化、人口減、過疎化が進行しており、6・7年前、自分が医学生時代に、市民や医療関係者とともに、この街の地域診断に取り組んだ。その結果、我慢して救急車を呼ばない人も多く、「医療では人を呼べない」ということを実感した。そして、16年暮れから月1回始めたのが、医療側から地域へ出向いていく「屋台カフェ」である。

コミュニティに人を呼ぶキーワードは「楽しい、美味しい、オシャレ」。五感に訴えるようにして、屋台のコーヒーは物々交換による提供を基本としている。この屋台が徐々に地域のたまり場となり、コーヒーを媒介に相談者も増え、新たなコミュニティが形成されつつある。「小規模多機能な公共空間」が作られ、色々な課題解決を「ゆるっと」やっている。

次に、「呼ぶ、行く、ある」という日常の居場所をつくるために取り組んだのが「だいかい文庫」。私の他、デザイナー、介護職員、学生ら色々な人を巻き込んで、商店街の空き店舗を手作りで改修して、20年12月にオープンした。ここは図書館であり、書店であり、「中距離のコミュニケーション」を意識して来訪者との距離感を大切しているため、スタッフは、会話に入れていない人への気配りを心掛けている。ケアとの接点としては、日に2時間ほど健康相談を行っている。ここでは様々な方が「一箱本棚オーナー」となり、本の貸し借りを通じて信頼関係が構築され、多層的なネットワークが形成されつつある。

人と人のコミュニケーションは、グラデーション状になっている。「だいかい文庫」を例にすれば、「店を見かける→店に入ってみる→本を借りる→店員に話しかける→本棚オーナーになる→店番をする」という段階があり、場との関わりは、居場所から役割へと変化していく。「誰もが集まれる場なんてない!」ので、「縦=行政区分」ではなく、「横=テーマ」で切ることが大切だ。行政が企画する介護体操は、高齢者しか参加できない。もし、「コーヒー好き」や「本が好き」をテーマにすれば、子どもから大人まで、障害をもっている人も健常者も、みんなが来られる場所になる。だいかい文庫は、社会学者のブルデューがいう3つの資本「経済資本、社会関係資本、文化資本」のうち、社会関係資本と文化資本をつくっていると思う。

冒頭に話した「社会的処方」において、患者さんを地域に橋渡しするリンクワーカーは、患者さんの状態をアセスメントしたうえで、就労や趣味・スポーツなどのインフォーマルな資源につなげていく。社会的処方には、「人間中心性、エンパワメント、共創」という3つの基本理念がある。人間中心性とは、コミュニティの資源から処方箋を考えるのではなく、患者さんのニーズから解決策を考えるということ。エンパワメントは、患者さんが外に出たくない場合も、その人に応じたつなぎ先を見つけてエンパワーすること。また、地域の中にその人に合うコミュニティがない場合は、共に創るという姿勢が大切である。2021年度の「骨太の方針」にも「社会的処方の活用」が書き込まれている。今後は、社会的処方が一層推進されることを期待している。

日本での社会的処方の事例としては、断酒会、若者サポートステーション、認知症カフェなどがある。誰もがリンクワーカーになって、人やコミュニティをお互いに紹介しあうような実践が進むとよい。従来のようなフォーマルな社会的処方しかないところに、スポーツや趣味等のインフォーマルなコミュニティを入れることによって、日本型の社会的処方が出来てくると思う。「地縁-血縁型コミュニティ」、「利益-会社型コミュニティ」に、「テーマ型コミュニティ」が加わるとよいのではないか。

今、厚労省では、支え・支えられる関係を超えて誰もが生きがいをもって生活のできる「地域共生社会」の実現を提唱している。そのためには福祉サイドのみならず、まちづくりサイドからのアプローチも必要になってくる。具体的に言うと、ケア従事者は個別支援のスキルはあるが、人を巻き込むノウハウがない。一方、まちづくり関係者は、人を巻き込むノウハウはあるが個別支援のスキルがない。互いが連携協力することで、地域共生社会が徐々に形成されてくるのではないか。


事例報告1
★松本 素子さん(ふらっと南湖 代表)

ふらっと南湖の「ふらっと」は、南湖ハウスに来た人はみんなフラット(平等)という意味と、「ふらっと」立ち寄ってください、という2つの意味を込めています。

自分の子育て中に、児童虐待が増えてきたことを知り、その原因について調べるうちに里親という制度に出会いました。
実子・里子の子育てを通じたわかったことは、
1⃣ 子どもは、親とは別の人格で、意志と意見がある
2⃣ 大人が子どもの声に耳を傾けることが大事
3⃣ 子どもには安定した大人の寄り添いが必要
4⃣ 親とは別に「ナナメ」の関係の大人が必要、ということです。

社会的養護とは、「親が育てられない子ども」を指します。
子どもたちが養護施設で集団生活をする様子を観察していると、
1⃣ 自分の気持ちを十分に聴いてもらえないことから、諦めることが身につき易い
2⃣ 職員の交代が多く、大人との信頼関係を築きにくい
3⃣ 18歳を過ぎて施設を出ても帰る場所がないため、ホームレスになったり、風俗に巻き込まれたりするケースが少なくない
ということが見えてきました。

茅ヶ崎市には3つの児童養護施設があります。人口比率から見ると施設数は多い方で、恵まれた環境にあると言えます。
里親には、ヘビー級(長期里親)、ミドル級(ホームステイ里親)、ライト級(日帰り里親)の3層がありますが、社会的養護問題の解決法としては、まず、ハードルの低いライト級(日帰り里親)から始め、研修を受けながら徐々にステップアップしていくのがよいと思います。

南湖ハウスは、
1⃣ 子どもサポーター育成(里親に関する勉強会の開催)
2⃣ 地域の文化交流(地域の人に料理などを教えてもらい交流する)
の2本柱で事業を展開しています。今後の抱負は、空き家を活用して、第2・第3の南湖ハウスを増やしていくことです。


事例報告2
★高村 えり子さん(ママほぐ 代表)

自分が第一子出産後、「頼れる人がいない、自分の居場所がない」など孤独な “孤育て” をした経験から、子育て中のお母さんの居場所の必要性を感じ、地域のお母さんと一緒に「ママほぐ」を立ち上げました。

「ママほぐ」の取り組みのひとつ目は、お母さんの居場所活動(モノづくり、からだのケア、お母さんの交流の場)です。
産後の母親は疲労が蓄積しやすい一方、子ども優先で、自分の体のケアが後回しになりがちなので、保育スタッフが赤ちゃんを預かり、母親のケアをしています。毎月40組の親子が利用しています。

ふたつ目の取り組みは、産後ケア(専門家へ相談できる場、お母さんの交流の場)です。傾聴カウンセラーによる心のケア、抱っことおんぶの練習をしています。核家族化が進み、昔なら上の世代から伝承するのが普通だった育児技術を学ぶ場が必要になっているのです。

みっつ目の取り組みは、茅ヶ崎市の産後のお母さんのためのポータルサイトの運営です。令和3年度げんき基金の補助を受けて制作しました。サイトのひとつ目の柱は「ひとりで子育てをしなくていいんだよ」という、メッセージを地域へ発信する啓発活動です。ふたつ目の柱は「子育てナビーINFO」です。お母さんの居場所マップや助産師マップ等の支援情報、子育て支援者の情報を一覧にしています。散在する子育て支援情報を一つに集約し、可視化するのがねらいです。みっつ目の柱は「子育てナビーMEET&TALK」です。地域で活動する専門家が書いた子育てコラムを掲載し、書き手と読者を結びつける機会を提供しています。

こうして、リアルとオンライン(ポータルサイト)が組み合わさったことで、お母さん同士、お母さんと地域、子育て支援者間のつながりが、より豊かにつながるようになりました。今後も、色々な人の助けを借りながら、お母さんへの支援を続けていきたいと思います。


交流会=グループワーク

交流会の1回目は「自己紹介、講演からの気づきの共有」、2回目は「事例報告からの気づきの共有、居場所づくりに向けて自分ができること」をテーマにグループに分かれて話し合い、全体でも共有しました。

1回目のグループワーク後の発表では、
「コーヒー屋台というツールが、目から鱗だった」
「参加対象(高齢者、子供など)ごとに事業を企画するのではなく、『コーヒー好き』のように、全世代を対象にできるテーマで人を集める(横に切る)という発想が興味深かった」
など、守本さんの斬新な発想とユニークな実践に関するたくさんの感想が寄せられました。


アンケート(抜粋)

・今日はありがとうございました。報告が盛りだくさんで、事例報告も別の機会にしてよいほどの充実度でした。『社会的処方』は拝読し、日本で「みんながリンクワーカー」という文化を広めたい(資格等の制度化を求めない)、というくだりが気になったところです。そのような文化を、事例報告やグループワークの中で、茅ヶ崎でもかいま見たように思いました。

・皆さんも話をされてらっしゃいましたが、横のつながりが大事だということ、そして、横の繋がりがあれば、発想が膨らみ、どんどん発展させられる可能性があることを感じました。

・大変有意義な時間をありがとうございました。守本さんのお話がとても良かったです。やはり若い方の発想は新鮮で透明感があり、取り入れるべきところが多いと感じました。

・基調講演の守本さんのお話は沢山ヒントが詰まっていて、街づくりまで入っていて、今盛んに言われている「地域共生社会」を実現していくための方法について具体的にイメージする事ができました。

 

今回の地域の居場所づくり交流会Ⅳをきっかけに、新しい居場所が誕生することを願っています。